嬉しい? いやちょっと違う。

残念? そういうわけでもない。
 

そこに確かにナギ・ユズリハはいる。

でもそれだけなんだ。
 

白色か瑠璃色か、マジョリティかマイノリティか。

いやなかにはキッカみたいな人もいるだろうけれど。

それでもわたしは未だ何も知らないに等しい。
 

初めて彼を見たとき。

あの紙を拾って、こっそり見たとき。

わたしは想っただろう。

ああほんとうに、わたしは馬鹿なんだろう。

でも、もっと馬鹿になりたい。


皮の手袋が音を立てた。

 
もう一度ため息をつく。

花の香りにふわっと油絵の具の匂いがまじった。

窓が開いているのか、と思えどもっと近い。

単純にナギ・ユズリハが寮から出てきただけだった。


「ああ」
 
わたしに気づいたらしく、こちらを見てそれだけこぼす。

そういえばヒノエが名前を読んだときもこうだった。