「ひとに」
 
フォークでサラダをつついていると、不意にナギ・ユズリハの声がこちらに向かってきた。

その左手に握られたフォークが、わたしをさす。


「食事を強要しておいて自分は食べませんって、フェアじゃない」
 
そして至極もっともなことを言う。

ぐうの音も出るわけがない。

多少行儀は悪いと思うけれど。
 

わたしはゆっくり彼の顔を見た。

キッカとはまた違った種類の、いつも同じ表情。

いくらか無愛想に見えなくもないその顔に「すみません」と呟く。


「今が無理なら、次」
 
その言葉は、すぐに理解できなかった。

彼の表情も声も変わらない。


「それは助かるな。じゃあ次からは一緒に用意するよ」
 
真逆の明るい声で会話に入ってきたキッカの顔見て、ナギ・ユズリハの眉が寄った。

初めて見た表情に、ようやく頭が追いつく。

きっと彼は形だけのつもりで言ったのだろう。

なのにキッカのひとことにこの先ずっとになってしまった。