「ニイも、ほら」
いつもと変わらないキッカの声。
その言葉に身体を動かせば、用意されたプレートの前の椅子を引いたナギ・ユズリハの姿があった。
そうして、すこし奇妙で不思議な朝食が始まった。
幸いなのはキッカがほどよく会話を提供してくれるおかげで、微妙な空気にならないことだ。
初めて間近で見たナギ・ユズリハは、やはり綺麗だった。
ジーンリッチにだって個性はある。
だけど彼はどこか中性的で、人形を思わせるような透明感があった。
この学園の生徒にしてはめずらしく、髪が長いせいもあるのかもしれない。
しかし彼に朝食を強制したわたしは、情けないことにやはり食欲がわかなかった。
昨日のことを彼が気にしていないのか、いながらもそう見せないのかがわからない。
かといってこちらから話題に出すことも憚られる。
まさか昨日はヤマギワが大変だったね、なんて言えるわけもない。
むしろそのもどかしさに余計、お腹は食事を受けつけなくなっていく。