斜め上にある顔は、トーストの端をくわえたままぽかんとしている。
引くに引けないわたしは、何も言えず動くこともできず彼を見つめる。
目だけはそらしちゃいけないと思っていた。
数秒後、ナギ・ユズリハが口のトーストを右手で抜き取った。
「変な奴」
文句か嫌味でも言われるかと思った。
だけど彼の口から出てきたのはそれだけで、その音はすごく温度が低かった。
不機嫌というわけでも軽蔑というわけでもない、ただ元からそうなんだろうなと思わせる匂いがある。
それに顔も、眉ひとつ動かない。
感情の起伏が乏しいのだろうか。
言葉を失ったのはわたしだ。
何も言うべきものがない。
だってそもそも今の行動自体、頭でゆっくり考えてしたものではなかった。
無意識とも違う、おそらく反射的に。
そんなわたしを見て、ナギ・ユズリハの口角が少しあがった、気がした。
彼は立ち尽くすわたしを置いて食堂へと戻ってゆく。