「いえ、声がしたので」
 
かすれた声しか出なかった。

とっさに嘘をつこうと思ったわけではないのに、ほんとうのことは出てこなかった。

わたしの言葉に、ヤマギワが顎を上げる。


「お前も謹慎とはな。やっぱりついていけません、ってか」
 
こいつは、わたしのことを知っている。

担任でもないのに、顔をあわせるとときおり嫌味を平気で口にする。

今まではそういうものだと思って流してきた。
 

けれど、今は何かが違う。
 

ふっ、と視線をそらしてしまう。

その先にいるのは、ナギ・ユズリハ。


「お前は他の奴らの百倍ぐらい努力しろ」
 
矛盾している。

さっきはジーンリッチだから、と言ったのに今度はこうだ。

そう、矛盾している。みんなこんなもんだ。


「すみませんでした」
 
顔をそむけたまま乾いた口でそう答えた。

そのまま急いでその場を離れる。