「自分がジーンリッチだからって、甘くみるんじゃねぇぞ。できそこないが」
心臓が痛いぐらいに跳ねた。
血液が沸騰するんじゃないかと思った。
いくら教師でも担任でも、言っていいことと悪いことがある。
そんなの、できそこないのわたしだって知っている。
もう一度身体を反転させた。
迷いはなかった。謹慎期間が延びるとか、目をつけられるとかどうでも良かった。
ヤマギワのその言葉だけは聞き流せなかったのだ。
ナギ・ユズリハをかばいたいわけじゃない。わたし自身のために、怒りがこみ上げてきていた。
だけどその一歩手前、今度ははっきりと彼がわたしのほうを見た。
髪よりも薄いグレーの瞳がまっすぐにこちらを射抜く。
その顔は苦悶に歪むことも、怒りに眉を吊り上げることもしていなかった。
ただ、感情なんて感じられないほどに、きれいだった。
足が止まる。毒気が、抜かれる。
「なんだ、アマハネ」
目が離せなかった。
だからヤマギワがこちらに気づいたことをわかっていなかった。
そろそろと顔を動かすと、いつもと同じ眉を寄せた顔がこちらを見ている。