「大昔のSFだけどね」
「ありがとうございます」
「昔は、未来はこうなるかもって考えてたんだよね。あいにくちっともその通りじゃないけれど」
タイトルはすでにかすれていた。
中を見ればわかるだろうけれど、確認するつもりもなかった。
今日からはこれを読もう。もうそう決めていたから。
本との出会いなんて、そんなものだ。
あと数冊持って行こうか考えて、やめた。
本から顔を上げると、今もなお微笑んでいるキッカがいる。
「ひとつお聞きしたいんですけれど」
返事はない。その代わり小首を傾げられる。
「ナギ・ユズリハって生きてるんですか」
ところがその質問をした直後、顏を背けられ声に出して笑われた。
あまり見たことのない姿に、どう反応していいかがわからない。
「気になる?」
「え、いやだって全然姿を見ないですし」
ふたたびこちらを向いた顔はなんだか楽しそうだった。
いやあきらかに楽しんでいる雰囲気がある。