ただひとつ気になるのは、ナギ・ユズリハの姿を見かけないこと。
本当にいるのか、と思ってしまうほど影も見なければ声も聞かない。
もっとも友人でもないのだから心配はしていない。気になるだけ。
机の抽斗から、あの日拾った紙を取り出す。
中身はもう見ない。でも捨てられない。
一体何が、と思う。
彼だってきみたちと同じでしょう、と。
わたしならともかく、彼が嘲笑される理由がわからない。
もやもやとした気持ちを一緒に、その紙を抽斗の奥へとしまいこむ。
そう、やっぱりちょっと残念かもしれない。
あの名の持ち主とすこしでも会話できるだろうか。
そんな風に思った自分は確かにいる。
この間は無視されたけれど、あらためて声をかけてみたらどうなのだろう。
でも、そんな機会すらもらえずに時間は過ぎてゆく。
恋愛は馬鹿がするものらしい。
その言葉をわたしはすこし、理解した気がする。