「といっても噂だけどね。僕だって知らないんだよ」
 
そうつけ加えたキッカがティーカップを置いた。

わたしは食事を摂るのをすっかり忘れていて、手の中のサンドウィッチをいつの間にかつぶしていた。


「それでも、僕はこの仕事を選んだんだ。自分のために」
 
キッカの声に柔らかみが増す。

「だから、きみたちは迷惑だなんて、心配しなくていい」
 

ああ、違ったんだ。素直にそう思った。

わたし寄りだなんて、馬鹿みたいだ。
 

このひとは確かに白い羊だ。

でもあの群れの中には存在しない。


「ありがとう、ございます」
 
迷惑を、なんて考えてもいなかった。

微塵もなかった、といえば嘘になる。

だってわたしは彼の休暇を奪ったのだから。

それでも、そう言ってもらえるほどの気持ちはなかった。


「はい。ご飯はきちんと食べてね」
 
続いた優しい言葉に頷くだけになる。

なんだか苦い味がこころに広がった。