もうひとくちかじった断面からバジルが香る。
料理が出来るのはちょっと意外かもしれない。
「せっかくなんだから、仲良くしたらいいのに」
彼の手に持たれたパンの間からはオムレツの黄色が見えていた。
オリーブオイルの香りがする。
「せっかくの謹慎だから?」
ヒノエ然り、どうしてそういう発想になるのかがわからない。
そんな気持ちを込めて言ってみる。
「手厳しいねぇ」
彼はいつものように、柔和に顔をほころばせてみせるだけだった。
「謹慎って言ってもね」
ひときれぶん食べ終わって、キッカがのんびりと口を開く。
「劣等生、っていうレッテルを貼られたわけでもないし、未来への選択肢への幅が狭まったわけじゃない」
紅茶の湯気が、ふわり彼の目の前に立ち昇った。