「いただきます」他に音のしない食堂にわたしの声が響く。
「はい。いただきます」キッカの声は、深くとけるような抑揚がついていた。
そういえば。
規則正しく挟みこまれた野菜とチキンとかじりながら思い出す。
ここにはひとり足りない。
キッカはふたりとも現れないと言っていた。
ナギ・ユズリハ。
もっとも、今顔を合わせたところでどうだろう。
話が出来る自信はない。
昨日の態度然り、持ち帰った紙然り。
「彼も来なかったんですか」
それでもそれは口を出た。
無言でこのまま食事が進むのもどうかと思ったし、他に話題もなかった。
何気なしの適当な会話が展開されればいいと思ったぐらいだ。
「まあ、お腹が空いたら出てくるとは思うんだけどね」
キッカの顔はいたってのんきに見えた。
さして問題とも捉えていないようだし、心配をしている様子もない。
それもそうだ。わたしたちは子どもではない。
いや親や社会の庇護を受けている以上子どもには違いないのだろうけれど、それでも自己で判断する力はある程度得ているはずだ。