「せっかく用意して待ってるっていうのに、ふたりとも現れないなんてねぇ」
思わぬ人物の登場に、思考がすぐには追いつかなかった。
ただ厨房の真ん中、シルバーの作業台の上に盛りつけられた食事プレートが用意してあるのが見えた。
「キッカさんが?」
「そう。だって料理人さんたちだって休暇の時期だし。それに彼らに謹慎者の責任はないからね」
「すみません」考えるより先に口が動くと、キッカは小さく笑いながら立ち上がった。
「いいんだよ。まさか寮生に適当にあるもの食えっていうわけにもいかないし」
それでも別にいいですけれど、という言葉は返さなかった。
彼は悠然と厨房を歩き、用意したプレートを両手に取る。
「それに、折り込み済みだから」
その手に乗せられたプレートは、確かに冷めても時間が経っても食べれそうな色鮮やかなサンドウィッチだった。
新しい紅茶のフレーバーはピーチとミント。
甘い香りの中に爽やかさがまじる。
ティーカップに砂糖をみっつ落とすと、キッカにはにかまれた。
自分が甘党であることぐらいは知っている。