着替えをすませコンタクトを入れ、わたしは廊下へと出た。
鍵を閉めてから食堂に向かう。
すでにキッカが指定した昼食の時間は過ぎていた。
誰もいない寮。
経験したことのない静けさの中、わたしの足音がこだまする。
無機質な建物の中にときおり置かれた観葉植物が青い香りをただよわせていた。
窓から差し込む陽の光が、廊下に影を落とす。
階段をひとつのぼって、一面ガラスの壁。
その隣にある食堂には案の定誰もいなかった。
既に昼食の時間は過ぎているのだから当然だ。
何か食べるものがあればそれでいい。
そう思って規則正しく並べられたテーブルと椅子の間を縫い、いつもは入らない厨房に足を踏み入れる。
誰かが飲んだのか、紅茶の香りがした。
「遅いよ」
ほぼ同時に聞こえてきた声に身体が止まる。
頭を左に向けると、外からは死角になる場所にキッカが座っていた。