寮に帰りつきヒノエと別れる。
寮長室のキッカは今日も何やら本を読んでいた。
その手にあるのは電子リーダーではない。
古びた紙の本に、金色のしおりが挟んである。
そういう物の選び方も、わたしは結構好きだ。
奥の階段へと消えたヒノエを見送ってから、わたしも部屋へと続く階段へと足をかけた。
寮長室からおだやかにミルクティの香りがただよっていた。
ときおりすれ違う女子生徒。
すでに制服を脱いだ彼女たちは皆美しかった。
そしてその誰もが背筋をぴんと伸ばし真っ直ぐに前を見据えている。
迷いなく道を進み段差に足を乗せる。
もう一段下があるかもしれない――そんな迷いはきっとない。
彼女たちはいつだって自分らしさを自覚している。
遠のくミルクティの香り。
代わりに自分の部屋の匂いが近づく。
雨の香り。人工っぽさはぬぐえなかったけれど、真夏の夕立の香りが一番好きだ。