しかし彼はわたしのぎこちないであろう顔を見てもなお、眉ひとつ動かさなかった。
寧ろ無視に近い。
まるでわたしなんてそこにいないかのようにヒノエの横を通り過ぎてゆく。
ショック? いや違う。
だってわたしは彼のことを知らないも同然。
無視なんてひどい、なんて思うのは勝手な理想論を押しつけるに過ぎない。
じゃあこの感情はなんだろう。
「お前が愛想ふりまくとか初めて見た」
ミントのような残り香の中、ヒノエがこぼす。
「いや、謹慎組として」
わたしの言葉に「そんなガラかよ」と笑い声が返ってきた。
確かに、そんなタイプじゃないかもしれない。
とは言わないまま、そのつま先を軽く踏んでおいた。
「なんか意外」
それに顔をしかめるわけでもないヒノエに背を向けて、わたしはグレーの髪を遠目に見る。
長い脚は歩幅も広いのだろう。すでに距離ができていた。