「ユズリハ」
その言葉に、思わず身体が固まってしまう。
その割に心臓が早鐘をうちだし、体温があがる。
ヒノエの声に反応したのか、彼はゆっくりとこちらを向いた。
「ああ」とだけ発した唇。
ゆるく波うつグレーの髪。
この人が、あの絵を描いたナギ・ユズリハ。
正直にいうと何も実感がわかなかった。
恋焦がれた名前の人物が現れたことに驚くばかりで、理解や感情はあとからついてきそうにもない。
ただ、そう。きれいだと思った。
左右等しい、均整のとれた顔立ち。薄い色素、細長い肢体。
やっぱり、ジーンリッチだ。
それが良いか悪いかのジャッジは下せない。
ヒノエもナギ・ユズリハもそれ以上何も言わなかった。
かといってわたしが割り込むのも変な話だ。
それでもちらっとナギ・ユズリハがわたしを見たので、頑張って微笑みかけてみた。
うまく笑えているかはわからないけれど。
明日から、寮にはふたりだけ――生徒は、なのだから。