高鳴る胸に、落ちつけと言い聞かせ、周りを見渡す。

そうして常設展の入り口横に、グレーを見つける。
 

記憶のままの後ろ姿。

ゆるくウェーブのかかったそれが、歩くリズムにあわせて揺れる。

 
足は勝手に動き出していた。

それが徐々に小走りになり、彼の背中へとぐんぐん近づく。
 

なんて声をかけよう。

今までなんども考えてきたのに、今となっては全てが飛んでしまっている。
 

なつかしい、その気持ちに、胸が締めつけられる。


「待って!」
 
なんて無難な声かけだろう。

再会は、もっと劇的なほうがいいだろうに。


「ようやく、見つけた」
 
止まった身体がこちらを振りかえり切る前に、口はさらに動いた。
 

隣を通り過ぎてゆく、ほかの客がこちらを見ているものの、気にしてはいられない。