もし、もしこの隣にある名が、わたしの予想するものだったならば。
そう考えて、はっきりさせるのはやめようと決めた。
わたしが勝手に思い描いて、期待したってしかたがない。
ううん、そんなことはしたくない。
だけど、賭けてみよう。
もしそうだったならば。きっと、彼は。
もう一度ふたつの絵の前に立ち、息を吸う。
左目から涙がこぼれた。
それをぬぐわないまま、わたしは背を向けて美術館の出口へと向かう。
あの寮でときおり、漂ってきたテレピン油の匂い。
ここにある『瑠璃の羊』はわたしが恋をしたあれとは違っていた。
あたらしく描き直したのかもしれない。
でも色合いも構図もなにも変わらない。
ただ、空を見あげる瑠璃色の羊が、ひとり、増えていた。
きっとそれが答えだろう。わたしはそう信じたい。