左側で瑠璃色の羊は、たしかに空を見上げていた。
その右側にある空は、鮮やかな青を携え、細くうつくしい月を浮かべていた。
きっと、主催者側も驚いたことだろう。
最初は似たようなタイトルだけに注目したかもしれない。
だとしたらこの絵を並べてみたひとにわたしは賛辞を贈りたい。
瑠璃色の羊は、その月を見上げている。
だけど瞳にはさみしさもかなしさも携えていない。
作者の名前を確認した。右側のプレートにある“テイト・カガ”
誰か知らない、絵だけで知っている名前。
だけどわたしはその名にときめかない。恋をしない。
その左隣にある名のほうが、とてもたいせつだから。
周りを見渡しても、それらしい人影は見つけられなかった。
でもきっと彼はここにきていた。
そしてこの絵を眺めていただろう。
だって、ここにはミントの香りが残っている。