「理由は?」
 
さして驚いたようすを見せることなく、淡々とした声が返ってきた。

むしろわたしがそれに拍子抜けしてしまう。

 
でも、わたしは決めたから。

「たいせつなものを、捕まえにいってきます」
 
まっすぐ、できるだけはっきりとした声で告げる。


「そう」キッカの微笑みが、笑顔に変わった。


「じゃあ、これをあげる」
 
そして小さなデスクの引き出しから、銀色のものが取り出される。


「これって」どこかで見た記憶がよみがえる。

「あの通路の鍵」まるでいたずらっこのように目を細めたキッカが、わたしの胸元でそれをぶらさげる。


「そもそもあそこの合鍵を作ったの、僕なんだよね。学生時代の話だけど」
 
わたしはその下に手を出して、落とされた鍵をしっかりと受け取った。