駈け足で階段を降りて、校舎からでる。

そこにあるのは偽物の空で、この気温ですら調整されたものだ。

汗が浮かぶほど暑くもない。

夏なのに、夏じゃない環境。
 

走るわたしを不思議そうに見る面々を追い抜いて、寮まで急ぐ。

鞄なんて置いてくれば良かった。

そう思いながら一歩ずつ確実に前へと進む。
 

どうにかするには、キッカに頼みこむしかないと思った。

だからまっさきに、管理人室へと向かう。
 
そこに座る、うつくしいジーンリッチ。


「おかえり、ニイ・アマハネ」
 
ちいさな窓ごしに微笑まれる。

今日も紅茶の香りをただよわせて、革表紙の本を携えている。


「すみません」
 
めずらしく閉められていた扉を、わたしは遠慮なしに開けて中に入った。

「外出許可をください」
 

それが簡単に与えられるものじゃないことぐらい、充分に知っている。

この学園は石頭でどうしようもなくって、融通なんてことばは辞書に載っていないだろう。