「腐ってない。ただちょっとぼーっとしてただけ」
 
ヒノエは、すごい。

どうして同じ年数を生きてきて、こうも違うのだろうと思う。

いつだって周りに流されない、自分というものがはっきりしていて、それは嫌味でも謙遜でもなく主張し続けている。
 

だから周りに笑われようと、なにを勝手に言われようと気にしない。
 

ナギ・ユズリハがいなくなったことによって、きっとヤマギワからはしつこいぐらいの小言を言われているだろうに。

わたしに遠慮してか、そんな愚痴ひとつこぼさない。

そもそも愚痴を言いたくなるほど気にしてもいないんだろうけれど。


「ふうん」ヒノエはわかりやすくそう言って、わたしの前の席に腰をおろした。
 
目線がすこし、近づく。

周りの声がすこし、薄くなる。