数分後、太鼓の音が空気を振動させた。花火がはじまる合図。

その瞬間、外にいる誰もがそれを期待して空を仰ぐ。
 

ひゅっ、と夜空を切り裂く音、一瞬消えてお腹の底を震わせる。

青味を帯びた暗闇に咲く、しろい大輪の花。


「きれいだね」わたしのことばにふたりが頷く。
 
次々描かれる火の線に、ところ狭しと咲いてゆく火の花。

すぐに散ってゆく花弁が、夜空にとけてゆく。


「夏も、終わるな」それを言ったのはヒノエかナギ・ユズリハか。
 
どちらかわからない程度には、夏の夜の空気は花火に支配されていった。

 
そうだ、確かに夏が終わる。

もう間もなくわたしたちはまたあの学園に戻らなければならない。ひどく閉塞的でさみしい空間に。

手袋をし、コンタクトレンズをはめ、自分を偽る日々を繰り返す。

それが当然かのように。
 

りんご飴をかじる。

あまくて硬い殻につつまれたりんごは、やわらかくてちょっと渋い。

昔からちっとも変わらない、味。