「私が気づいたときには、あの子の身体は傷だらけでした。絵を描くたびに、描くのに迷うたびに、かきむしっていたようです。なかなか会わせてもらえなかった孫でしたが、これは駄目だと、無理矢理ひきとってきました」
両親は海外にいると聞いた。だからおじいさんが保護者なのだと。
だけど実際にはこんなことがあったなんて。
知らない過去を、その本人がいないところで聞いてしまうのは、とても気持ちが悪い。
でもわたしは聞いてしまうし、きっと忘れることができないだろう。
「それでもあの子は、絵を描くことをやめません。自分は描かなければならないのだ、と思っているようです。私も最初はいろいろ言いました。無理に描かなくてもいい、ほかにしたいことはないのか。だけどあの子はいつもなにも言わずキャンバスに向かってしまう」
そのうち、言うのも憚られてね、とおじいさんは乾いた笑いをこぼす。
「いずれ、もしやめる日がきたとしたら、そのときは受けとめてあげよう。それまではこの子に任せよう。決着をつけさせてやろう、と思いました」