「だけど息子は、すこしだけ、間違いを起こしました。息子は確かに才能がなかったことを悔やみました。

ですが私にとっては才能なんてどうでも良かった。他人と違うところがあるのなら、それが才能です。息子はそのことではなく、周りのプレッシャーに潰れてしまったのです。そこに気づいてくれれば、同じことは繰り返さなかったでしょう」

 
ああ。おじいさんの悲しみがわたしにすこし滲みてくる。

だけど、ジーンリッチという選択をしたのならば、そこに既に答えは出ていたようなもの。


「息子は、あの子に自分が受けた以上に強い期待をかけました。お前はジーンリッチなのだ、遺伝子的に優れた才能を持って生まれてきたんだ。だからお前は祖父のようになれ、祖父を越えるんだ」
 
ふう、とつめたいため息がもれた。

反対にわたしの息はつまる。

 
期待されて生まれてきた。期待したとおりに生まれてきた。だからきっとできるはずだ。

そうナギ・ユズリハは思われてきた。
 

そこにはわたしの知らない世界がある。

期待されて生まれてきた。だけど期待したとおりに生まれなかった。だけど私たちは見捨てない。あなたは私たちの大切な子。

それはナギ・ユズリハは知らない世界。