「あの子は、素直な子でしてね」
夏の風が吹きぬけてゆく、田舎の一本道でおじいさんの話ははじまった。
「あの子の父、つまり私の息子は、私のようになろうと必死でした。周りの期待に応えて、私の期待に応えて。でもどんなに頑張っても自分に才能はないのだと、砕けてしまったのです。そこで」
おじいさんはいったん息を止め、眉尻を下げてわたしの顔を見る。
「自分の子どもには、そんなことを感じさせないようにと、決断しました。そしてジーンリッチという選択をしたのです」
その顔はどこかさみしそうに感じた。
もしかしたらおじいさんは、そのことに反対をしたのかもしれない。
でもナギ・ユズリハは実際にジーンリッチとして生まれてきた。