*


「ああ、知ってたよ、もちろん」
 
真っ青な空に覆われた朝、ヒノエの家が経営する畑でトマトを収穫しながらわたしは何気なく聞いてみた。

ヒノエは知っていたのか、兄が帰ってきていることを。


「だったら、教えてくれてもいいでしょう」
 
ナギ・ユズリハはすこし離れたところで作業をしていた。

なんだか緑とか土とかが似合わない気がして、この世界からほんのすこし、浮いて見えた。


「お前ね、いい加減にしなさいよ」
 
陽ざし避けに被っていた帽子のつばを弾かれる。


「イチイさんになんの非があるの」
 
非。非などない。だってあの人は、完璧だから。

見た目も、中身も、思想も、仕事も、家族への情も、わたしへの愛情も。

だから知っている。これは単にわたしのコンプレックスなのだと。

物心ついたときから染みついた、ただの僻みだと。
 

一位の兄、二位のわたし。イチイ・アマハネと、ニイ・アマハネ。