朝に寮を出て、空の色が茜色に染まり始めたころ。
ようやく実家最寄りのバス停がアナウンスされる。

窓の外、ヒノエの姿が見えて思わず笑ってしまった。
 

停車したバスの軋むドアの開閉音。土の匂い、木々の匂い。

それらに囲まれてほっとひといきつく。

微かに味噌と醤油の香りもする。

ああ、帰ってきたんだな、とバスを降りてのびひとつ。


「おつかれ、謹慎ふたり組」
 
屋根も何もないバス停で待っていてくれたヒノエが笑いもせず言ってのける。


「お迎えごくろうさま」

「ユズリハ、この変人につきあってくれて感謝するよ」
 
頼んだ覚えはないですけれど、とつけ加えようとしたところでそう遮られた。

いきなり話を振られたナギ・ユズリハは、何も表情を変えないままにわたしを見て、それからヒノエを見て「確かに、変な奴だ」としみじみと言う。
 

それがほんのすこし嬉しくて、こっそり笑ったのは、秘密。