傷跡は消さないらしい。そうキッカから聞いた。

それがどういう決意なのかはわからない。

生まれつき両手にあざのあるわたしには、自ら進んで傷を残すという意思は、わからない。
 

消毒液や薬の匂いにまじって、ミントの香りが風にのる。

久しぶりな気がする、ナギ・ユズリハの匂い。

 
ふたりだけの帰り道、寮まではそう遠くなく、路面電車に並んで座る。

流れてゆく街並み、点滅する進行シグナル、夏休みを満喫する家族の声。

普段わたしたちがあまり目にしない日常が溢れていた。


「明日で、終わりだね」何気なしに口にした。他意はない。

「ああ」ナギ・ユズリハは表情を変えずにそれだけ言う。
 

路面電車が止まり、扉が開く。

今からどこか遊びにゆくのか、同世代の女の子たちが三人乗ってきて、少し離れた場所に座った。

各々香水でもつけているらしく、相混じった香りが鼻をつく。