「一緒にナギ・ユズリハも、ね。ふたりいっぺんってのはなかなかないよ」
また怒られるんだろうなぁ、そんなため息が聞こえてきた。
こういうことをあっけらかんと言ってしまえるところも、嫌いではない。
「ご迷惑をおかけします」
「気にしないで。迷惑かけられるのが僕の仕事だから」
左右対称の、均整ののとれた顔立ちがやんわり微笑む。
夏季休暇の際、家に帰らない生徒はいない。
むしろそれが義務のようなものだ。
だからその間は各寮長も休暇が取れる。
なのにその期間に謹慎とは。
「キッカさんも、煙たがられてるんですね」
彼に遠慮はいらない。だから嫌いじゃない。
「手厳しいねぇ」
もう一度キッカが笑った。
たぶんヒノエ以外の唯一の味方、に近い人間。
他に話はなさそうだったので、わたしは頭を下げてから退室しようと回れ右をした。
ティーポットから、こぽこぽと紅茶をそそぐ音が聞こえる。
「これをきっかけに話でもしてみてよ」
扉のノブを押した瞬間、そんな声を背中に聞いた。
それが誰をさしているのかは、聞かずともわかっている。