「芸術家気取って自殺なんざなぁ、古いんだよ。まあそもそもなにもしてないお前がそんなことしたところで、笑い草にされるだけだがな」
 
目の前が真っ赤になる。

なに言ってんだこいつ。


「絵も描かずに自殺未遂とはな。この欠陥品が」
 

ああ、もう無理だわ。
 
皮の手袋がぎゅっと音を立てる。


「ニイ!」
 
キッカの声が廊下に響いた。

でも、悪いけどそんなんじゃわたしを止められない。
 

スローモーションみたいだ。

自分の一歩がとても長く感じる。

まるで映画みたいにゆっくりと振り返るヤマギワ。

ほんの少し見えた、ナギ・ユズリハの顔。
 

教師? 生徒指導担当? 

そんなの関係ない。
 

こいつは人間として、底辺にも乗っちゃいない。

 
ひとの顔は案外硬かった。

手袋ごしとはいえ、こぶしにも痛みが走る。

でもそんなことより、ようやく夢がかなったかのような、妙に晴々しい気持ちが生まれてくる。