「非常事態ってか。まあ非常というより異常だわな」
なにをこのひとは、とこころの底から思う。
こんなときにもその嫌味な言動を抑えられない。
大人とは思えないし、やはり微塵たりとも尊敬できない人間だ。
しかしこの大声。病室の中が気になる。
なにをしにきたのだろう。
とてもじゃないが教え子を心配して様子を見に来たようには思えない。
暇つぶし? ただの嫌味?
だったらさっさと去ね。
「ほんとこの馬鹿が」
その思いむなしく、ヤマギワは勢いよく病室の扉を開けた。
キッカが立ちあがるも静止は間に合わなかったようだ。
「なにしてんだよお前は。俺の顔に泥塗る気か」
そのちっぽけな背中ごしに見える病室。
真っ白なシーツと白い腕。そこに巻かれた包帯。
胸がぎゅうっとしめつけられた。
さすがにキッカが止めに入る。それでもヤマギワはお構いなしだ。