六六六号室の周りはとても静かだ。ひとの気配がない。

これは予想でしかないけれど、運ばれた理由、所属している学園、そして何より彼がジーンリッチであることから、隔離にちかいものを受けているのだと思う。

だから他の病室の人間あるいは家族という線は薄そうだ。
 

となると医者なのかもしれない。

そう思えど、どうもその足音はけたたましい。

ゆっくり歩いている雰囲気がしない。

そのスピードゆえか、わたしが顔を向けてすぐに音の主の姿が見えた。


「あ」と思わず声がもれる。

キッカもわたしに後頭部を向け「おやまあ」などとのんきそうに言っている。


「なんだアマハネ、お前がどうしてここにいる。謹慎中だろうが」
 
しかしわたしのこころはキッカほど余裕がない。

さっそくの小言、しかも結構おおきな声にため息を我慢する。


「僕が許可しました。いろいろと手伝ってもらいましたし。そう目くじら立てなくても良いんじゃないですか、ヤマギワ先生」
 

代わりに相手をしてくれるキッカの声は、慣れ切っていた。

ヤマギワがふんと鼻で笑う。