もう、あの音は聞こえてこなかった。

外の話し声に気づいたのかもしれない。
 

涙を流せばすっきりするものなんだ。むかし誰かが言っていた。

そしてわたしもそれを知っている。

だから男だろうが大人だろうが情けなかろうが悔しかろうが、泣きたいときは泣けばいい。

みっともないことなんてない。それが人間でしょう。
 

キッカはコーヒーと一緒にホットサンドを買ってきてくれていた。

まだ充分に温かい。

中身はソーセージとピクルス。マスタードソースがぴりりと刺激する。
 

温かいものを胃に入れると、身体の緊張がすこしほぐれた気がした。

感じていなかった空腹感はひと口目で主張し出し、あっという間に全てを口に入れさせる。
 

その様子を見られていたのか、隣で紅茶を飲んでいたキッカが喉を鳴らしていた。

「食べる?」と自分のぶんを差し出すしぐさに、わたしは慌てて首を振る。

 
そのときだった。遠くから足音が響く。
 

ナギ・ユズリハの両親は現在海外にいるらしくすぐには戻ってこれないと聞いた。

今日本で面倒を見ているのは祖父とのこと。

しかしその祖父も、遠距離のためすぐにはつかないとキッカから教えてもらった。

ではいったい誰が。