扉に手をかけたまま、止まっていた。

やがて新たな音が加わった。

わたしはそっと扉を離れる。
 

くぐもった声。必死に噛み殺す何か。
 

ナギ・ユズリハは泣いていた。声を押し殺して。

だから、わたしは顔を出さない。

 
しばらく廊下で雨の音を聞いていた、意識的に。

そうしていたほうが良かったから、自分的に。
 

響く足音に顔を向ければ、キッカがトレーに飲み物と食べ物を持ってきたところだった。

わざわざ用意してくれたらしい。申し訳ない。

そう思ってすぐにちゃんと食べようと思い直した。


「はい。お待たせ」
 
そういう声は優しい。

トレーから湯気ののぼるカップを渡される。


「どう?」
 
それだけアバウトに聞かれた。

きっと病室の中のことだろう。

どう答えるべきか悩んで、わたしは曖昧に口角をあげてみた。

それで何が伝わるかはわからない。

だけどキッカは一度扉を見てから「じゃあ、先に食べちゃおうか」とわたしの隣に座った。