行ってこよう。ついでにキッカにも紅茶を持ってきてあげよう。
そう思って立ち上がる。その直後、手をつかまれる。
「僕が行ってくるよ。紅茶? コーヒー?」
ぎゅっとなる手袋。
まるでわたしの頭のなかを見透かしたような質問。
「あ……じゃあコーヒーで」
その手がとても強くて、わたしは言葉に甘えてしまった。
キッカは目を細めてうなずくと、立ちあがって小さく伸びをする。
わたしの顔に影が落ちた。
「ちょっと待っててね。もしナギが起きたら、ついててあげて」
雨音の響く廊下に、彼の足音が加わった。
反響してそれは、前後左右から聞こえる。
寝ていたと思ったのに、小さくなりやがて曲がった背中を見送りながら心のなかでつぶやいた。
いや、寝ていたわけではないのかもしれない。
なんとなくだけれど、こういう状況で寝れるひとではない気がする。