ちいさいころ、こんな絵本を読んでいた。
 

タイトルは『じさつのかみさま』。

なんともいえないタイトルなのに表紙は思いのほか明るい桜色で、黒いマントを着た人間に見えなくもない神様が丘の上に立っている絵だった。
 

じさつのかみさまは、仕事や人間関係、家族のことで悩んでいるひとたちのところにゆく。

ふしぎな杖を持っていて、その杖をふると目の前に扉が現れて、それをくぐればその人の家の前というわけだ。

そして窓からこっそり中の様子をのぞく。
 

仕事をなくしてしまった男のひと、恋人が戦争で死んでしまった女のひと、いろんなひとの家をのぞく。
 

そうして、ひとつの家を選ぶ。
 

そこにいたのは十歳ぐらいの少年で、彼は治らない病気に苦しんでいた。

毎日にがい薬を飲んで、ベッドの中でばかり過ごす。

優しくしてくれるお母さんにあたり散らして、わがままばかり言う。


少年は夢にうなされるたび、こう思っていた。

「生きている意味ってあるのかな」