殺風景な部屋だった。

およそ芸術学部のひとの部屋とは思えないほど、色がなかった。

そんなことを冷静に見れてしまうぐらいには、わたしの頭は混乱している。

ゆっくり、音と匂いのする場所の前に立つ。
 

馬鹿だ。素直にそう思った。

濡れた髪が顔に貼りついている。

投げ出された足。力なく壁にもたれる上半身。

小さなナイフを落した右手。

白い肌、血の気のない唇。閉じられた瞳。

赤いひとすじの線。


「この馬鹿」
 
キッカの声もわたしと同じだった。

ほんとうに、馬鹿だ。何を選択しているのだろう。


「ニイ、医務室に連絡」
 
迅速に対処し出すキッカを見て、わたしは笑った。

どうしてだろう。なんで笑いがこみあげてくるのだろう。何がおかしいんだろう。


「まだ脈はある。大丈夫だから」
 
みゃくはある。だいじょうぶ。だいじょうぶ?
 
だって、その手は。
 

気張っていた力が抜けた。

文字通りぺたんと腰を落してしまう。

フローリングの床が、とても冷たかった。