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この学園にわたしのほんとうのことを知っている人間は、教師のぞいてふたりしかいない。

ひとりは幼馴染のヒノエ。

そしてもうひとりが、わたしが属する第二寮の寮長。キッカ・ナナミ。
 

わたしはこの男のことが嫌いではない。

入寮したての頃こそ、その誰にでも同じ笑みと声音が気持ち悪かったものの、今ではそれにも慣れてしまった。

だって彼はすべてにおいて嘘くさいのだ。

ならばそれが真実。すべて裏ならそれは表。


「おかえり、ニイ・アマハネ」
 
寮長室は玄関脇で、彼はこの時間帯いつもそこで本を読んでいる。

常に開いている扉からは、甘い紅茶の香りが漂ってきていた。


「ちょっと、おいで」
 
柔和な笑み。

でもそれだって微妙な変化があることも知った。

嬉しいとき、怒っているとき。彼は目尻の位置がすこし違う。
 

そして今回はそのどちらでもない。

おそらく、呆れているとき、だ。