「びっくりした?こんな車だけどちゃんと動くから大丈夫だよ」
正樹は近くの駐車場に絵美を案内すると、いかにも古そうな白いワゴン車の前で立ち止まって笑いながら言った。
「今日ひさしぶりに実家に帰ったらさ、親父がもう使ってないって言うからもらって来たんだ。汚いけど、ちゃんと走るよ」
絵美は正樹につられて思わずクスッと笑った。
「そんなことないです。すごく素敵な車だと思う」
正樹はぶっと吹き出した。
「まぁ、ある意味レトロでお洒落と言えなくもないな」
ふたりが乗り込んで正樹がエンジンをかけるとブロロロと大きな音がして、絵美と正樹は顔を見合わせて笑った。
「さすが、年代物は音が違うな」
そう言いながら車を発車させると、正樹が「ああ、そうだ」と思い出したように言った。
「母さん、花束すげえ喜んでたよ。『正樹が花くれるなんて思ってもみなかった。』ってさ。あんな喜んでる母さん初めて見たよ」
絵美はほっとした表情で、「良かったぁ」と言った。
「心配してたんです、好みじゃなかったらどうしようって」
正樹は絵美をちらりと見ると、ふっと笑いながら言った。
「絵美ちゃんてさ、」
「はい?」
絵美が不思議そうに運転席の正樹を見上げる。
「絵美ちゃんてさ、子犬みてぇだな」
「犬…ですか…」
恥ずかしそうに絵美が下を向く。
「うん、子犬。人懐こくて可愛いくて、撫で回したくなる」
正樹がそう言うと、絵美はまた真っ赤になって俯いた。


