何度となく送ったマンションの前にキューブを停め、腕時計をちらりと見た。
毎年、母の日の晩にくたくたに疲れ切って帰って来る真希をマンションまで送り届けるのは自分の役目だった。
疲れ切って助手席で眠る真希を、何度愛しく思ったことだろう。
あれ以来、真希は迎えに来いと言わなくなってしまったけれど、疲れて帰って来るに違いない今日は、真希の大好きなシュークリームを買って待っていようと思いついたのはつい2時間ほど前のことだ。
緑色のタクシーがマンションの前に止まり、今にも倒れそうな危なっかしい歩き方で真希が車を降りて来た。
「…やっと帰って来やがった」
そう呟くと、太一はキューブのエンジンを切り、シュークリームの箱を手に車を降りた。
真希を追いかけて、マンションのエントランスをくぐり抜ける。
「お疲れ!…ま…」
声を掛けようとしたその瞬間、真希は背の高い男に後ろから抱き締められていた 。
抵抗することもなく、真希は抱き締められたまま人形のようにぴくりとも動かない。
「…真希…」
しばらく抱き締め合った後、男が真希の肩を抱いて二人はエレベーターに乗り込んだ。
太一はシュークリームの箱を持ったまま、しばらくその場所を動くことができなかった。


