駅前にあるショップの共同金庫に今日の売上金を納めると、真希は警備員のおじいさんに声を掛けた。
「遅くなっちゃってごめんなさい。」
警備員の制服をきっちり着こなしたおじいさんが真希の言葉に顔を上げた。
「今年もよく売れたかい?」
「ええ、売れました。だから片付けもこんな時間になっちゃった」
真希は全身黒の制服から既にTシャツと細身のデニムに着替え終わって、肩から大きめのレザーバッグを掛けている。
母の日に、帰りが夜中になるのは毎年のことで、いくつもある駅前のショップの中でも一番最後に金庫に売上金を預けに来る真希を、おじいさんは毎年優しい笑顔で迎えてくれる。
「おじさん、ありがとう!お疲れさま!」
真希はそう言うと、タクシー乗り場に向かって歩き出した。
「すみません、港町までお願いします。住所は…」
自宅の住所を言い終えると同時に、真希は一瞬で眠りについた。
「お客さん!着いたよ、お客さん!」
タクシー運転手の声で目が覚める。
「えっ…あ、もう着いたんだ」
重い瞼を無理矢理持ち上げ、料金を支払うと自動で扉が開く。
「すみません、ありがとうございました」
タクシーをおり、ようやくゆっくり眠ることができると思った。
その時だった。
「真希!」
真希の体がびくんと震えた。
振り返らなくたってわかる。
背中に感じる気配は他の誰のものでもない。
振り向いたら、一貫の終わりだ。
真希は黙って歩き出し、マンションのエレベーターの前で立ち止まった。
エレベーターのランプは、8階のところでチカチカと点滅を続けている。
「…お願い…早く来て…」
後ろから足音が聞こえ、真希の後ろでぴたりと止まった。
「…真希」


