「絵美ちゃん!」
終電に乗るため改札に向かって走っていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
まさかと思って振り返ると、月明かりに照らされた駅前の広場に笑って手を降る正樹がいた。
「正樹さん…」
月明かりに照らされた正樹があまりに絵になっていたものだから、その姿に一瞬見とれて立ち止まる。
「…はっ!終電!」
はっと我にかえって絵美が腕時計を見ると、その瞬間、駅から最終電車の発車を知らせるアナウンスが鳴り響いた。
「あーあ、終電逃しちゃったね」
正樹が肩をすくめてにこっと笑いながら言った。
「お詫びに家まで送らせてくれない?あと、今日の花束のお礼に」
絵美はガタンゴトンと去っていく最終電車を見送りながら、黙ってこくりと頷いた。


