「絵美ちゃん、お疲れさま。あとはあたしが片付けとくから、もう上がっていいわよ」
時計の針が夜の十一時を指すと、真希はうーんと深呼吸をして言った。
「今なら終電、ギリギリ間に合うでしょ?」
「いいんですか?」
売れ残ったカーネーションのバケツの水換えをしていた絵美が言った。
「いいわよ、今日は忙しかったし疲れたでしょ?早く帰ってゆっくり寝ないと、お肌荒れちゃうわよ」
真希は笑いながらロッカーから絵美のバッグを取り出し、絵美に手渡しながら言った。
「はい、お疲れさま。絵美ちゃんがいてくれて、ほんとに助かった。ありがとう」
絵美はそれを受け取ると、嬉しそうに頭を下げた。
「いえ、ありがとうございます!明日からも頑張ります!」
「気を付けて帰ってね、絵美ちゃん」
真希は店を出て駅に向かう絵美の後ろ姿に手を振った。
「あら?」
すると、絵美の後ろ姿を走って追いかける、背の高い影が目に入る。
「あ…」
どうやらあの影は、昼間花束を取りに来た例の彼のようだ。絵美が出てくるのを待ち伏せしていたらしい。
真希は嬉しそうにひとりでふふふと笑った。


