「…一体どういうことなんだ」
かつて親友だと思っていた男と向き合いながら、冷静を装って武は言った。
カタカタと足が震え、声は上ずっている。
「麻里子とふたりで俺を騙していたっていうのか」
そう言った武の正面には、妻の麻里子と猛が並んで腰掛け、テーブルの側の真新しいベビーベッドには産まれたばかりの赤ん坊がすやすやと寝息をたてている。
「すまない」
猛は落ち着いた低い声でそう言った。どうして否定しないのだ、頼むから嘘だと言ってくれよと武は目で訴える。
自分が築いた幸せなはずの家庭は、もう一年以上も前から既に壊れていたというのだろうか。
「あなたが悪いのよ」
ぞっとするほど冷たい表情で麻里子は言った。
「あたしが猛さんに頼んだの。猛さんは何も悪くない」
そう言って、時折ベッドの赤ん坊をちらちらと心配そうに覗き見る麻里子の表情は、幸せな母の表情そのもので、武は絶望的な気持ちになる。
「麻里子…」
自分を誰より愛してくれていたはずのこの女は、もうこれっぽっちも自分のことを愛していないというのだろうか。
「どうしてそんなに悲しそうな目をするの?」
麻里子は呆れたような顔つきで、冷たく言い放った。
「これであなたも、自由になれるわ」


