太一からプロポーズを受けたあの日、車の中でキスをした。
あまりに一瞬の出来事で、真希はただぎこちなく笑うことしかできなかった。
『真希が結婚したくなるまで、待つよ、俺』
いつものように笑いながら太一は言った。
『今まで散々待たされてきたんだからな』
優しくて、誰より信用できる存在である太一。
太一の言葉はいつも真希にとって、武のどんな甘い台詞よりも、深く長いキスよりも、全身で感じるセックスよりも、ずっとずっと幸せな魔法だった。
太一に抱かれたらどんな気持ちがするのだろう。
太一はどんな顔であたしを抱くのだろうと真希は時折考える。
どんな風に自分の為に愛の言葉を囁き、どんな声で快感に身を委ね、どんな表情をするのだろう。
「さ、おしゃべりはこれくらいにして今日も頑張ろ!今日は売れるわよ」
真希は言った。
忙しさで何も考えられなくなればいい。
あっという間に一日が終わってしまえばいい。
「はい!頑張ります!」
絵美の元気な声と笑顔に、気持ちが少し安らいだ気がした。


