「あたしもそう思います」
絵美はそう言うと、真希と目を合わせてふふふと笑った。
「そういえば絵美ちゃん、例の彼とはどうなったの?」
真希がからかうような口調で言った。
「あの彼がバレンタインの彼なんでしょ?」
絵美は耳まで真っ赤になっている。
「あ…、そうなんです。店長のおかげでバレンタインにチョコレート渡せたのに、報告遅くなってすみません…」
「いいわよ、別に」
真希はあははと笑いながら言った。
「うまくいってるの?彼とは」
耳まで真っ赤になった絵美が、作業の手を止めて嬉しそうに言った。
「連絡先を教えてもらって、一度ご飯を食べに行きました」
絵美が恥ずかしそうに話すと、真希は驚いたように目を見開いた。
「えっそれだけ?じゃあまだなんにもしてないの?」
「それだけです。彼がわたしのことどう思ってるのかも解らないですし…」
ざく、ざくと給水フォームをナイフでカットしながら絵美は自信なさげに俯いた。
あいかわらずピュアだなあ、そんなの勢いでやっちゃえばいいのに、と真希は言おうとしたが絵美には刺激が強すぎるような気がしたので言わないことにした。
「あ、でも今日、彼お店に来るんでしょ?母の日のプレゼント、花束で予約入ってたよね?」
「あ、はい。最初はお届けのご注文だったんですけど、近くならご自分で渡したほうが喜ばれますよって言ったら、じゃあ取りに来ますって正樹さんが」
絵美が言うと、真希はにやりと笑った。
「ふうん、正樹っていうんだ、彼」
「あ…はい…」
こんな風に純粋な女の子に戻りたいと真希は思った。
何年も前から自分の心は荒んで汚れてしまっている。
もとはどんな色だったのか、いまとなってはもう解らない。


