そしてあのバレンタインの夜。 もう店を閉めようという時間になって、奇跡は起こった。 彼女がひとりで突然やって来たのだ。 紙袋に入ったチョコレートを大切そうに抱えて、ほっぺたに黄色い花粉をつけたまま。 神様なんて信じたことはなかったけれど、正樹はそのとき、バレンタインの神様がちょっとしたイタズラ心で彼女をここに連れてきたのかもしれないと思った。 小さな花の妖精が、チョコレートを持ってやってきた。 正樹は思わずふふっと笑った。