正樹がそれを発見したのはちょうど一年前だった。
駅前の広場に友人のダンスの練習を覗きに行った正樹は、そこから見える光景に一瞬で目を奪われた。
花のマークが描かれたバンから自分の体ほどもある細長いダンボール箱を次々と運び出し、積み重ねていく小柄な女の子。
全身真っ黒の出で立ちに、ゆるくカールした柔らかそうな髪を、後ろでひとつにまとめていた。
メイクはあまり得意ではないらしい、と感じたのは職業柄、いろいろな女の子を毎日眺めているからだ。
何より驚いたのは、彼女が笑っていることだった。
それもひとりでダンボール箱を運びながら、だ。
彼女が大切そうに抱える大きなダンボール箱の中身が気になって、正樹はこっそり後をつけた。
「…うわ、すげえ」
正樹は思わず声をあげた。
彼女の運び出した大きな箱からは、次々にたくさんの花が出てきたのだ。
「お花屋さん…か…」
その日から、正樹は駅前に行くとこっそりその店を覗くようになった。
たくさんの花に囲まれて、幸せそうに笑う彼女を見るために。
そうしてある日、正樹はあることに気付いた。
彼女を見たことがあったのだ。
それも一度や二度ではない。
ついこの間まで、彼女はほとんど毎日のように、自分の働く店に自分の作る料理を食べにやって来ていた学生だったのだ。


