「あぁ寒かったぁ…」
浅井絵美は独り言を呟きながら、小さなアパートの前に自転車を止めた。
絵美の吐く息が冷たい夜の空気に白くふわっふわっと消えていく。
白い積み木で作ったような小さなアパートは、絵美が田舎から出て大学生になったとき、一人暮らしを始めたアパートだ。
大学を卒業して花屋で働き始めた今も、引っ越すのが面倒だったこともあってそのままこの部屋に住んでいる。
ワンルームでユニットバス、一口コンロで不便極まりないけれど、絵美はこじんまりとしたこの部屋が、実は気に入っていたりする。
部屋の窓際に持ち帰ってきたピンクのポインセチアを飾り、真っ白のダウンジャケットをハンガーに掛ける。
水玉模様のシーツをかぶせたベッドに腰掛けると、絵美は店長の真希からもらったクリスマスプレゼントの紙袋を開けた。
「わぁ…!」
絵美はため息混じりの喜びの声をあげた。
真希からのプレゼントは生花用のハサミと折り畳み式の小さなナイフで、店長の真希がいつも店でアレンジやブーケを作るときに使っているものと全く同じ形のものだった。
違うところといえば、ハサミの持ち手の色がピンクなこととナイフの皮の部分が赤い色をしていることだけで、真希が使っているのはどちらもシンプルな黒いものだ。
「あたしの為に選んでくれたんだぁ…」
絵美はそう呟くと、きらりと輝くナイフとハサミの入ったケースを大切そうにぎゅっと抱きしめた。


